- 2024年 11月 27日
映像活用における個人情報保護への配慮
AIやIoTの普及が進む近年の社会において、ドライブレコーダーや監視カメラの映像から人の動きを分析してマーケティングに活用するなど、様々な業界で映像を活用する機会が増えています。またYouTube等を活用して、映像を使ったプロモーションや発信を行う企業も増えています。
しかし、映像活用の際に注意しなければならないことの一つとして個人情報やプライバシー等保護の問題があります。万が一、個人情報やプライバシー等を侵害してしまい被撮影者が精神的苦痛や不利益を受けた場合には、対象コンテンツの差し止めだけではなく、損害賠償や裁判、行政・メディアへの対応等で、多大な時間と労力が発生することもあり得ます。また、侵害のおそれがあるだけでも、炎上等で社会的信頼を損なう可能性もあります。
法的義務の対応だけではなく、被撮影者のプライバシー保護は事業者における社会的な責任であることを受け止め、映像を取り扱う際には事前に個人情報やプライバシー保護に関して考慮することが必要であり、その重要性は今後ますます高まっていくと考えられます。
映像データ利活用の社会動向
近年、様々な業界において映像や画像データの取扱い規模は急激に増加しています。総務省によると、インターネットで転送されるデータ量は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大直前の2019年11月から2021年11月までの2年の間に約2倍に増加しており、今後10年で30倍以上になると見込まれています。様々な業界において映像や画像データを活用した取り組みが多様化していることも、そうしたデータ取扱い規模増大の理由であり、たとえば自動車業界ではドライブレコーダーで取得した映像データを新たな事業の創出に繋ぐ、小売業界でも監視カメラで取得した映像データをマーケティングに活用するなど、様々な活用が推進されています。
一方で、映像データ利活用における問題となる事例も増えており、適切な個人情報・プライバシー等の保護への対応が迫られます。
映像における個人情報保護対応
映像を活用するにあたって、個人情報保護法、プライバシー、肖像権の保護対応を行う必要があります。
1. 個人情報保護法
事業者は、個人情報を取り扱う場合は個人情報保護法に定めるルールを守らなければなりません。また、取得した個人情報を検索できるようにデータベース化した場合、そこに含まれる個人情報は「個人データ」となり多くのルールが適用されます。さらに、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪歴、犯罪被害を受けた事実等、本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようその取扱いに特に配慮を要する情報は要配慮個人情報とされ、取得にあたって本人から同意を得る必要があります。
2. プライバシー
プライバシーは判例で認められた、「他人に知られたくない私生活上の事実や情報をみだりに公表されない権利ないし利益」のことを言います。私生活の情報を覗かれたり、勝手に公開されたりすると恐怖や不快感を抱きますし、悪用されて不利益を被るおそれもあります。こういった精神的苦痛や不利益を受けないよう保護することを目的とした権利ないし利益です。
個人が判別できる映像や画像を撮影し公開した場合、以下の全部に該当するとプライバシーの侵害と判断され、不法行為となり損害賠償を請求されるおそれがあります。
- 人の私生活に関わる事実、またはそのように受け取られる恐れのある事柄か
- 一般的な感覚で本人が公開を望まない内容か
- 一般的にまだ知られていない事実か
- 公開されることで本人が精神的苦痛を受けるか
3. 肖像権
また、プライバシーと同様に映像活用時に配慮しなければならない権利として肖像権があります。
肖像権は自分の顔や身体を正当な理由なく勝手に撮影されたり公表されたりしないようにする権利です。肖像権も、それ自体個別に法律で明文化された権利ではありませんが、憲法13条(人格権)から保障されるとして裁判上認められている権利です。
肖像権の侵害に当たるかどうかは、「受忍限度の範囲内」であるかどうかにより判断され、受忍限度の範囲内かどうかは、以下の観点を総合的に考慮して判断されます。
- 被撮影者の社会的地位
- 被撮影者の活動内容や撮影場所
- 撮影の目的、必要性、態様
4.国外のデータ保護規則:GDPR
国内の配慮だけでなく、国外のデータを取り扱う可能性がある場合は、国外の規則にも配慮する必要があります。特にEUにおけるGDPR(一般データ保護規則)では日本国内で定められているよりも個人情報に該当する範囲が広く、厳しい罰則が課されます。
EU域外の者であっても、その者がEUに向けて取引をしており、それが個人データを取り扱う者である場合は、GDPR適用の可能性があります。
5. 注意するポイント
では具体的にはどのような点に配慮する必要があるのでしょうか。映像の取得と利用のフェーズに分けて考えます。
まず、映像を取得する際は映像を取得する範囲や検知する内容、撮影場所などによっては、個人を容易に特定できてしまう情報を意図せずに取得してしまう可能性があります。そのため、事業者は映像の取得・利用目的の正当性等があるかについて、十分配慮しながら映像を取得しなければなりません。
次に、映像利用の際に注意するポイントです。取得した映像について、そこに映る顔等により特定の個人を識別できるものであれば、映像データは「個人情報」に該当します。そのため適切に管理・運用を行い、利用が終わったらなるべく破棄を行うことが望ましいと言えます。しかしながら、昨今では映像データを様々な形で活用する動きも見られ、すぐに破棄できない場合もあります。その場合は特定の個人を識別することができない状態に映像を加工して、映像に含まれる個人情報を削除することで、リスクを抑えた映像の利活用ができるようになります。ただし、映像を加工した場合であっても、元データを削除しない場合、引き続き個人情報保護法の適用がありますので注意が必要です。
モザイク処理での個人情報保護対応
特定の個人を識別することができない状態にデータを加工して復元できないようにすれば、原則として、その映像は個人情報に該当せず、また、肖像権やプライバシー侵害の問題も発生しません。すなわち、映像にモザイク処理を復元できない形で施して特定の個人を識別することができない状態にすれば、被撮影者が精神的苦痛や不利益を受けるといったリスクが低減され、悪意がなくても気が付かないうちに他人のプライバシーや肖像権の侵害をするケースを防ぐことができます。それにより事業者としても、長期的に保存したり、公開したり、第三者に提供したりすることができるようになります。
また、映像を取得する時に想定していた目的以外で、その映像を利用する場合は、映る人の同意を改めて得る必要が生じることがありますが、その対応策としてモザイク処理を検討することもよいでしょう。
モザイク処理の作業は、人材やコストの課題がありますが、AIを活用することで映像に自動的にモザイクをかける技術も存在します。個人情報保護への関心が高まる中、個人情報保護のためのソフトウェア導入や仕組みづくりも広がっています。
適切な個人情報保護対応で安全な映像資産の活用を
個人情報保護対応は、個人情報保護法などのリーガルリスク、また問題となった際のレピュテーションリスクを考慮すると今や企業経営のために不可欠な要素となっています。映像資産の活用の際には一度立ち止まり、適切な個人情報保護対応ができているのか検討することが求められます。
問い合わせはこちら:https://blur-on.com/
(執筆:日本テレビ放送網株式会社 杉町 夏実)