- 2020年7月7日
今、各企業は、社内での新型コロナウィルス感染症の予防対策を講じていますが、その一環として、パンデミック下での感染拡大の防止という社会的な要請ですとか、従業員に対する労務上の安全配慮義務から、いつも以上に従業員の健康状態に強い関心を寄せていることは、ご案内のとおりです。でも、会社はどこまで踏み込んで、従業員個人の健康状態を知ることができるのでしょうか。あるいは、知ることが適切なのでしょうか。従業員の健康状態を知ることは、社会全体のため、会社全体のために当然のことと思っていたのが、プライバシー保護の観点で、どうも超えてはいけない一線があるのではないかということが、会社で人事労務、総務や法務コンプライアンスなどに携わっている実務家にとっては、少なからず気になってきているようです。そこで、いくつか典型的な場面を見てみましょう。
まず、感染していると発熱を伴う場合が多いということで、職場のある建屋やお店などの入り口で従業員や訪問者に検温を行っている場面によく遭遇しますが、従業員の中に発熱している人を認識したら、そのあとどうするのでしょうか。たとえば、多くの人が列をなしているときに、顔見知りの誰かが発熱しているということが分かりました。その人が帰宅させられ、しばらく出社しないとなると、感染しているのではないかと噂になることもあるのではないでしょうか。そういうことを気にする人はすごく気にします。他に見られる対応として、従業員が自分で検温して、発熱しているときは出社を差し控えるというのがありますが、それとでは、考えようによっては大違いなのかもしれません。そもそも、欧州の場合、国によっては会社が従業員の検温をすることを禁止しています。また、国によっては、従業員自身に検温させることを奨励しているケースもあります。それから、検温する場合でも、上記のような気まずい場面に遭遇することを回避するために、プライバシーに配慮することを求めています。
次に、実際に、従業員の中に感染者や濃厚接触者が出た場合、それを周囲に知らせなければならないのですが、知らせ方に悩むことがあるのではないでしょうか。二次感染防止のために、感染のリスクを周知しようとすることは自然なことです。でも、誰が感染しているのか、個人を特定して知らせる必要があるのでしょうか。それを知らせた場合、ソーシャルディスタンスの確保といった一般的に求められている対応を逸脱して、感染者や感染の可能性のある人に対する周囲の人の接し方や付き合い方だとか、態度とか、そのあとに影響が長く続くことも、懸念として考えられるのではないでしょうか。実際、医療従事者の家族が学校でいじめにあったといったこともあったようですが、期せずして、会社や会社の外で本人や家族が嫌な思いをするような状況を作り出してしまうことはないのでしょうか。多くの国で、社内での感染者や濃厚接触者の存在を周知するときに、できる限り、個人を特定した形で行わないように求めています。
また、持病や特定の既往歴があると、感染した場合に重篤化しやすいということで、会社としては、親切心で「危ない人」を予め炙り出して、気をつけましょうと、注意喚起しておこうと考える場合があるかもしれません。本人が自発的にそうした情報を会社と共有する場合もあるでしょうが、人によっては、そういうことは会社に知らせたくない、弱みを見せたくないと思うかもしれません。そういうふうに受け止め方が人それぞれであるということを念頭に置いておく必要があるのではないでしょうか。実際、米国など、多くの国がこうした、とりわけ、センシティブな健康情報を会社が積極的に把握しようとすることを禁止しています。この辺のところについて、国内では必ずしも明確な指針が出されていないわけですが、他の会社はどうしているのだろう、という疑問から、周囲の会社と情報交換したり、顧問弁護士の先生に対応を相談したりして対策を講じているのが一般的なのではないでしょうか。当然、それは、それで、大いに当を得た対応であると思います。
しかし、世界に目を転じると、国によっては明確な指針が示されていることがあり、また、それにいろいろな考え方、価値観があることも分かってきます。こうした多様な情報に触れる機会がこれまで少なかったというのが日本の実情ではないでしょうか。弊社のBizRisでは、プライバシー保護、データガバナンスなどのテーマにフォーカスし、世界各国の情報をグローバルな視点で幅広く収集し、分かりやすく日本語でタイムリー提供することに力を入れています。今般、こうした観点から、欧州、米州、アジアの各法域の動向をまとめた資料を公開しています(特集:新型コロナウイルス対応とプライバシー保護)。これは、無料コンテンツですので、気兼ねなく、必要と思われる情報を取り出して、実務の参考にしてみてください。そして、これからも、BizRisでは、こうした活動に大切に取り組んでまいります。
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執筆:森田 俊一(ビジネスリスクコンサルティング本部)
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